- イーサネットとは
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2019-02-07
はじめに
イーサネットは米国Xerox社のパロアルト研究所でその最初の産声を上げました。
その最初の実用化は、Experimental イーサネットと呼ばれている3Mb/sのスピードのもので、1976年のことでした。パロアルト研究所からは、他にも今日のコンピュータ社会を支えている重要な技術が数多く輩出していることは、皆さんよくご存じのとおりです。Xeroxが複写機の代名詞であるのと同様に、イーサネットはLANの代名詞と言っても過言ではないでしょう。
以下に、イーサネットの歴史を年代記風にまとめてみたいと思います(図1)。イーサネットの名称の由来
イーサネットのEtherとは、その昔天空上層に存在すると考えられていた霊気のことです。日本語のカナ表記ではエーテルと表記されますが、19世紀になってからは光・熱・電磁気の空間伝搬を媒介する仮想媒体としての意味も持つようになりました。
もちろん現在ではエーテルの存在は科学的に否定されていますが、ネットワークの媒体としてまさにピッタリのネーミングですね。このエーテル、古き良き時代のスペースオペラSFファンには非常になじみの深い言葉ではないでしょうか。
そうです。
かって宇宙にはエーテルが満ち満ちており、キャプテンフューチャーのコメット号や宇宙のスカイラーク号がエーテル流の中を疾駆していたのです(閑話休題)。英語をカナ表記する場合には、なぜかローマ字読みになってしまうことが多いのですが、イーサネットに限ってはめずらしく英語発音に従って“イーサネット”と表記されるのが一般的です(もっとも、実際には“イーサーネット”と発音する人が多く、アクセントや子音のからみもあって、英語として通じにくいのに変わりはありませんが)。
さしずめ明治時代であれば、霊気通信網とかエーテル網、エーテルネットとかの表記になったことでしょう。イーサネットのルーツ
イーサネットのアイデアはどこから生まれたのでしょうか。
そのルーツは、ハワイ大学で1970年に開発されたAloha-Netにあるといわれています。
Aloha-netは、無線を利用したパケットネットワークです。
これはインターネット初期の実験ネットワークであり、無線LANのルーツであるともいえます。Aloha-netもイーサネットも伝送媒体が空間と同軸ケーブルという差こそあるものの、共有メディア上における公平かつ効率的な通信方式の提供という、技術的には共通の課題を持っているのです。
Pure Aloha とも呼ばれている最初のAloha-netには、送信プロトコルとして特別なアクセス調停ルールが用意されていませんでした。
つまり、各通信ノードは、他の通信ノードが通信していようがいまいがおかまいなしに送信を開始する仕様だったわけです。
結果として、通信ノード数が増えると送信データの衝突が頻繁におこることになり、計算上の最大スループットは0.18という非常に通信メディアの使用効率の悪いものでした。
使用効率を改善するために次に考案されたのが、各通信ノードの送信タイミングを同期化して衝突が起こる確率を減らしたSlotted Alohaと呼ばれるものです。この手法により計算上の最大スループットは0.37まで改善されました。Aloha-netでは、パケットの送出時間よりパケットの受取側までの伝搬遅延時間の方がかなり長いことが想定されていました。
例えば、衛星通信です。
このような状況では、他の通信ノードの現在の通信状態をキャリアの存在等で把握するのは効率的ではありませんし、大きく減衰した他局からのキャリアが自局から送出されるキャリアでマスクされてしまうので衝突検出も非常に難しくなります。一方、逆にパケットの送出時間よりパケットの受取側までの伝搬遅延時間が十分に小さい場合はどうでしょう。
この場合は、各通信ノードは他のノードの送信パケットをすぐに受信することができ、結果として、現在の通信状態を把握することが可能になります。
この考察に基づいて考案されたのが、送信キャリアをモニタして通信メディアの使用状況を監視し、通信メディアが空くの待ってから送信を開始するCSMA(Carrier Sense Multiple Access)方式です。CSMA方式は、その再送アルゴリズムとして以下の種類に大別されます。
- 1-persistent方式
通信メディアが空いていればすぐ送信を開始する方式です。もし通信メディアが他で使用中の場合は、それが空きしだいすぐ送信を開始します。 - p-persistent方式
通信メディアが空いている場合、もしくは通信メディアが使用中の場合はそれが空いた後、確率pで送信する方式です。逆に、確率(1-p)で所定の時間待つことになります(通常は最大伝搬遅延時間相当)。 - non-persistent方式
通信メディアが空いていればすぐ送信を開始する方式です。もし通信メディアが他で使用中の場合は、確率分布による所定の時間待った後、再び通信メディアが空いているかどうかのキャリア検出に戻り、同様の動作を繰り返します。
イーサネットの発展
1976年に完成した最初のイーサネットはその通信速度が3Mb/sのもので、Experimental Ethernetと呼ばれています。この段階では、あくまでもXerox社の独自技術として開発されたものであり、特殊なネットワーク技術にしか過ぎませんでした。
イーサネットの発明者であるMetcalfe氏は、1979年にXerox社を離れますが、イーサネットの普及のためには標準化が必要と考えた彼は、DEC/INTEL/Xeroxの3社間をとりまとめ、イーサネットの標準化の共同作業に大きく貢献します。
この共同作業の成果として、最初のイーサネット標準規格が1980年に公開されました。これは、3社の頭文字を冠してDIX Ethernet V1.0と呼ばれ、データの転送速度も10Mb/sとなりました。Blue Bookとも呼ばれるこの標準規格は、1982年に改定されました。
この改定規格は、DIX Ethernet V2.0あるいはEthernet_IIと呼ばれ、V1.0との互換性は若干犠牲としたものの、現在のIEEE802.3規格の実質上のプロトタイプとしてその後のイーサネットの基準となり、広く普及してゆくことになります。
この規格で宣言されている設計目標を図3に示しますが、明確かつ簡潔なものです。DIX Ethernetは、その改定作業と平行してIEEEでも国際標準(図4)としての標準化作業が進められ、1985年にIEEE 802.3として標準化が完成しました。
この国際標準はその後も新しい技術を取り入れながら、今もなお進化を続け、現在ではFast-Ethernetの通称で知られる100BASE-Tシリーズの標準化が完了しています。また、既に1Gb/sの規格化作業もスタートしているのは、皆さんよくご存じのとおりです。早い時期に標準が確立したこともイーサネットの普及の重要な要素であったと思います。
現在ほど、オープン化が当たり前でなかった時期に、それを積極的に進めたMetcalfe氏並びにXerox社には、あらためて敬意を表したいと思います。余談ではありますが、Metcalfe氏は有力なLANメーカの一つである3COM社の創立者でもあります。
最近では昨年末にInfoWorld誌で公表された“1996年にはインターネットは崩壊する”というショッキングな予言者としての方が有名かも知れません。 - 1-persistent方式
- Ethernetの標準規格(IEEE 802.3)
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2019-02-07
はじめに
LANの標準化は、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)で、802プロジェクトとしてスタートしました。1980年2月にスタートしたので802とプロジェクト名がつけられたということです。Ethernetの標準化は、このプロジェクト内に設けられた802.3委員会(ワーキンググループ)で進められました。このプロジェクトには、125以上の企業や大学が参加し、そのプロジェクト名称はそのまま規格名として受け継がれています。
標準規格は、IEEEにおける標準化作業の後、先ずANSI/IEEE標準として発行され、その後でISO(International Standards Organization)国際標準として承認・発行されるのが普通です。ISO規格の改定周期は約3年と長いので、その間における規格の改定や新規格は補足版として随時IEEEから発行されています。これらの補足版は、次期改定時には規格本体に取り込まれます。
もう少し規格全体としての表現上の統一があってもいいような気がしますが、分業の成果として割り切られているようです。
IEEE 802.3規格の構成
IEEE 802.3規格(1993年版)の構成を図5に示します。
Ethernetは同軸ケーブルのみが規格対象となる伝送媒体でしたが、 IEEE 802.3規格では種々の伝送媒体が規格化されており、図6に示すルールでその規格名がつけられています。
10BROAD36を唯一の例外として、その他の規格はすべてEthernetファミリーです。Ethernetの正当な後継者である10BASE5、細径同軸ケーブル(RG58U)を採用してネットワーク敷設の簡易化・コストダウンを狙った10BASE2、電話線用のツイストペア線を伝送媒体に使用したStarLANとして知られる1BASE5、現在その普及が目覚ましいツイストペア線を使用した10Mb/sの10BASE-T、その光ファイバ版10BASE-FX等々、Ethernetの発展形が次々に規格化されています。
10BASE-Tを更に高速化したのがFast Ethernetと呼ばれる100BASE-TX/T4規格です。また、10BASE2はThin-EthernetとかCheaperーNetとも呼ばれます。これに対応して、10BASE5をThick-Ethernetと呼ぶ場合もあります。
IEEE 802.3規格の詳細
それでは、IEEE 802.3規格の主要部分を眺めてみることにしましょう。ここでは、規格としてどのようなことが定義されているかを中心に、IEEE 802.3規格から抜粋して説明します。Ethernetのしくみと規格としての関係を理解して下さい。
●MAC層のサービス(IEEE 802.3: 2.MAC Services Specification)
第1章の導入部(Introduction)に続き、第2章ではMAC(Media Access Control)層が提供するサービスの概念が説明されています。IEEE 802規格で特徴的なことは、OSIモデル(図7)におけるデータリンク層がLLC(Logical Link Control)層とMAC層(図8)に分割されて定義されていることです。
IEEE802.3のMAC層であるCSMA/CDについての具体的な仕様は、第4章で定義されています(後述)。
- Ethernetの標準規格(IEEE 802.3)MAC層のフレーム構造
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2019-02-07
転送パケットのフレーム構造がこの第3章で定義されています。
図9にそのフレーム構造を示しますが、フレームは以下の7つの部分に分けて定義されています。 ネットワーク関係の技術では、8ビットの集合単位をバイト(Byte)ではなくオクテット(Octet)として表現することが多く、IEEE規格でもオクテット表現ですの覚えておいて下さい 。プリアンブル部(Preamble)
クロック同期のためのトレーラ部分で、"1"と"0"の交互繰返しパターンが続きます。7オクテット(56ビット)長のフィールドです。
フレーム開始部(Start Frame Delimiter)
フレームの開始を示す1オクテット(8ビット)長のフィールドです。パターンは"10101011"です。多くのハードウェアでは、オクテットパターンの検出ではなく最後の連続した"1"の検出でその代用としていますので、現実的には62ビットのプリアンブル部に2ビットのフレーム開始部(SFD部)という解釈もあることを考慮しておいて下さい。
送信先アドレス部(Destination Address)
フレームの送信先アドレス用のフィールドです。規格では、16ビット長と48ビット長の2種のアドレスが定義されていますが実際には48ビット長しか使用されていません。アドレス部のフォーマットを図に示します。このアドレスは一般にはMACアドレスと呼ばれるもので、最初の24ビットがメーカ固有の番号となっています。この番号の登録管理はIEEEで行われ、各メーカは自社の番号を取得後、残りの24ビット部分を自己管理します。通常は、製品種別とその製造シリアル番号の組み合わせで管理されることが多いようです。
このMACアドレスの唯一性が保証されているのは非常に重要ですので、最近のLAN機器はすべてROMもしくはEPROMにMACアドレスが書き込まれています。一昔前は、MACアドレスをファイルからロードするものやバッテリバックアップRAMに格納したものがあり、それらに起因したMACアドレスからみのトラブルも多かったようです。もちろん、現在でもソフトウェアにより任意のMACアドレスの設定は可能ですが、デバッグ時の緊急対処に限るべきであり、恒常的に使用するべきではありません。 図10にメーカ別の固有コードの例を示しておきます。
送信元アドレス(Source Address)
フレームの送信元アドレス用のフィールドです。アドレスの定義は、送信先アドレスと同じで、16ビット長と48ビット長の2種のアドレスが定義されていますが実際には48ビット長しか使用されていません。
データ長部(Length)
データフィールドの有効データ長をオクテット単位で指定する2オクテット(16bit)のフィールドです。ネットワーク上には上位オクテットから送信されます。このフィールドはIEEE 802.3とEthernetの代表的な違いの一つです。Ethernetでは、このフィールドはプロトコルを指定するタイプフィールドでした。これに関する詳細については、EthernetとIEEE 802.3の違いのところで説明しますが、プロトコルのタイプ定義はすべてデータの最大長である1500オクテットより大きい値となっているので、両者の共存が可能であると同時に、このフィールドを使用して両者の区別も可能です。
データ領域部(Data and PAD)
データが格納されるフィールドで、46オクテットから1,500オクテットまでの大きさを持つ可変長フィールドです。データが46オクテットに満たない場合は、PADと呼ばれるダミーデータを付加して46オクテットになるように補正し、最少フレーム長を確保します。このPADのパターンには特に規定がなく、任意のパターンを使用できます。
フレームチェック部(Frame Check Sequence)
フレームの伝送誤り検出用に付加される4オクテット(32ビット)のフィールドで、バースト誤り検出能力が高いと言われているでAutoDIN II多項式によって生成されるCRC(Cyclic Redundancy Check)値が格納されます。CRCの計算範囲は、送信先・送信元アドレス部、データ長部、データ部(PAD含む)です。受信側でも同様のアルゴリズムでCRC値を計算して比較し、一致しない場合はエラーフレームとして廃棄されます。
フレームの各オクテットは、フレームチェック部を除いて下位ビット側からネットワーク上に送出されます。フレームチェック部だけは上位ビットから送出され、32ビットのデータが上位ビットから下位ビットへ連続した形を保ちます。図11にフレームのビット送信順について示しておきます。また、以下の項目に一つでも該当する場合は無効フレームとして廃棄し、上位層であるLLC層にデータを渡してはいけないことが定義されています。但し、エラー集計等の管理用としての利用は許可されています。
- データ長フィールドの値から類推されるフレーム長と実際のフレーム長に矛盾がある場合
- プリアンブル部を除いたフレーム長がオクテットの整数倍になっていない場合(余分なビットはドリブルビットと呼ばれます)。
- CRCエラーとなった場合。
- Ethernetの標準規格(IEEE 802.3) MAC制御
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Ethernetの心臓部ともいうべきCSMA/CDによるアクセス手法が、この第4章で定義されています。
MACサブレイヤーの機能
以下の項目がMACサブレイヤーが備えるべき機能として定義されています。
送信・受信におけるデータのカプセル化
- フレーム処理(フレームの分離や同期)
- アドレス処理(送信先・送信元)
- エラー検出(物理層の伝送エラー検出)
通信メディアのアクセス管理
- メディアの分配(衝突回避)
- 競合の解決(衝突処理)
ここでの定義は主にフローチャートとパスカル風の論理記述によってなされています。紙面の都合上、そのすべてを載せることは到底無理ですので、送信・受信時の処理の流れを簡単に整理しておきます。
送信処理
- 上位層からデータを受け取り、送信フレームに加工します。この時、必要に応じてPADデータを付加した後、フレームのCRC値を計算してフレームチェック部に設定します
- 他の通信ノードが物理層を使用中の場合は、送信待機状態となります(Carrier Sense)。
- 物理層が空いて送信可能になってもすぐには送信できません。所定のフレーム間隔(InterFrame Gap)を確保するために規定時間(9.6us)待ってから送信を開始し、フレームをシリアルビット列として物理層に送出します。
- 送信中に衝突を検出した場合でも、フレームの送出はすぐには停止されません。衝突状態を他のノードでも確実に検出できるようにするためにジャム(Jam)と呼ばれる特殊なパターンに切り替え、それを32ビット分送出します。ジャムのパターンに特別な規定はありませんが、ジャム直前までの転送フレームのCRC値に一致するものであってはなりません。
- 衝突発生時には、規定のアルゴリズムに基づいて再送を試みます。MAC部における再送は最大16回であり、16回連続で衝突が発生した場合には、上位層へ送信失敗が報告されます。
受信処理
物理層からのシリアルビット列を受信を開始し、先に述べたSFD部を検出するとフレームへの再組み立てを開始します。 フレームの受信が完了すると、先ずその大きさをチェックします。規定最小値より小さい場合は、衝突によるイリーガルなフレームとして廃棄します。これような極小フレームは、通常ラントパケット(Runt Packet)と呼ばれます。 次に自局宛かどうか、その送信先アドレス部をチェックします。自局に設定されているMACアドレスもしくはマルチキャストアドレスに一致するか、ブロードキャストアドレスの場合は処理を続け、いずれにも該当しない場合はフレームを破棄し、次の受信待ち状態になります。
次にエラーの有無をチェックします。フレームが大きすぎないか、CRCエラーがないか、オクテット単位のフレーム再構築でビット余りが発生しなかったかどうかがチェックされます。これらのエラーは、それぞれ上位層に通知されます。最後のビット余りが出るエラーはアラインメントエラー(Alignment Error)と呼ばれています。
正常に受信されたフレームは、上位層に転送します。衝突発生時の再送処理のアルゴリズム
それでは、衝突発生時の再送処理のアルゴリズムについて詳しくみてみましょう。
図12にこのアルゴリズムにおける再送信間隔と衝突回数の関係を示しておきます。Ethernet/IEEE 802.3では、再送処理アルゴリズムに、再送信間隔に上限を設けた台形型バイナリエクスポネンシャルバッックオフ(Truncated Binary Exponential Backoff)が採用されており、再送信間隔はスロットタイム(51.2us)を基準に以下の式で表現されます。
再送信間隔 T = 51.2us * n
ここで整数nは0≦n< 2kの範囲からランダムに選択する。ただし、kは衝突回数で最大値は10である。
このアルゴリズムでは、物理層が混み合って衝突が増加してきた場合に、衝突フレームの平均再送間隔を指数関数的に増加することによってその衝突確率を減らします。但し、再送間隔の上限は衝突回数が10回以降は同一とする規定ですので、システムとしての最大再送待ち時間は52.4ms(=51.2us*1023)となります。一方、衝突回数が1-2回程度と少ない場合には、その平均再送時間は短く、あまり待たずに送信を開始することができます。衝突回数によって物理層の混み具合を想定し、再送信の確率を変動させながらそれに対応する優れたアルゴリズムです。これにより、混雑時には物理層の衝突確率が減ってその利用率が向上しますし、非混雑時には衝突による再送遅延が小さくなるように調整されますので、ここでも利用率が向上します。このしくみが不思議な程うまく機能するのは、みなさんよくご存じのとおりです。
- Ethernetの標準規格(IEEE 802.3)10BASE5
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2019-02-07
Ethernetの心臓部ともいうべきCSMA/CDによるアクセス手法が、この第4章で定義されています。
通常イエローケーブルと呼ばれる外径約1cmのインピーダンス50Ωの同軸ケーブルが通信媒体として使用されます。最近では、黄色以外のカラーバリエーションも豊富になってきており、セグメント別の色分けも可能です。また、リピータ無しの場合の最大セグメント長は500mで、1セグメント当たりの最大接続MAU数は100台です。10BASE5用MAU-同軸ケーブル間の電気的特性
10BASE5用MAU-同軸ケーブル間の主要な電気的特性の規格を以下に示します。
[受信処理]
MAUを同軸ケーブル側から見た場合の入力インピーダンスは、容量2pF以下、抵抗100kΩ超と規定されています。これは非送信状態において、5MHzから10MHzの周波数レンジで、電源の ON/OFF状態に関係なく達成されなければなりません。正常な通信の障害となる反射波を防ぐためにこうした厳しい入力容量規制になっています。また、同軸ケーブルへの実際の接続点であるコネクタ部の容量も含めた合計でも4pF以下と規定されています。[バイアス電流]
非転送時におけるMAU-同軸ケーブル間のバイアス電流は、電源のON/OFFとは無関係に+2uAから-25uAの範囲にあることと規定されています。電流の流れる方向は、MAUから同軸ケーブル方向が“+”です。[同軸ケーブル上の信号レベル]
同軸ケーブルは電流ドライブ方式でドライブされ、1個のMAUは通常送信時に平均直流電流レベルで-37mAから-45mA、最大ピークで-90mAをドライブします。この電流が両端が50Ωで終端された同軸ケーブルに流れると振幅約2V、平均電圧レベル約1Vの電圧波形となります。図3.20に同軸ケーブル上の波形を示します。 DO信号から同軸ケーブル上信号へ変換開始時のビット消失は2ビットまで許容されています。変換遅延時間は、定常時1.5ビット以下と規定されています。また、同軸ケーブル波形からDI信号への変換開始時のビット消失は5ビットまで許容されています。[衝突検出]
衝突発生時には複数のMAUのドライブ電流が重なって平均直流電圧が通常値より下がりますので、これによって衝突状態を検出することができます。規格では、衝突時には平均直流電圧で-2.2Vより低い値を保持できるドライブ能力が要求されており、衝突検出のスレショールド値は-1.492Vから-1.629Vの範囲となっています。MAUは衝突検出後9ビット時間(900ns)までにCI信号上に衝突検出信号(CS0: 10MHz)を送出しなければなりません。また、衝突状態が解消された後は20ビット時間(2us)以内に衝突検出信号の送出を停止しなければなりません。CI信号は、SQEテストとしても利用されますが、そのテスト信号の送出規定は、DO信号上のIDL信号検出から0.6us - 1.6us後に10±5ビット期間です。[ケーブル波形の立上り/立下り時間]
10-90%の立上り/立下り時間が25±5nsで、立上り/立下り時間は2ns以内で一致しなくてはならないと規定されています。[ケーブル波形の高調波成分]
高調波成分も規制されており、第2次・第3次で基本波の20dB以下、第4次・第5次で基本波の30dB以下、第6次・第7次で基本波の40dB以下、他の高次高調波で基本波の50dB以下となっています。[ジャバー機能]
何等かの障害により、MAUがデータを長時間送信しっぱなしになってしまう状態を回避するためにジャバー(Jabber)と呼ばれる機能をハードウェアでMAU内に実装することが要求されています。この機能は、送信時間を監視し所定の時間を超過した場合は強制的に送信を停止させるためのものです。規定による制限時間は最少で20ms、最大で150msになっています。ジャバー機能により送信が停止した場合は、MAUは衝突状態をDTEに伝えるモードに入ります。このジャバー保護状態の解除は、DTEから電源供給を受けるMAUではその電源ON/OFFにより、自己電源供給のMAUでは0.5s ± 50%後に解除してもよいことになっています。
10BASE5用 MAUの電気的特性
10BASE5用MAUの主要な電気的特性の規格を以下に示します。[電気的絶縁]
MAUは同軸ケーブル側とAUIケーブル側の電気的絶縁を提供しなければなりません。両者間の絶縁抵抗は、60Hz測定時に250KΩ超、3MHz - 30MHz測定時に15Ω未満が要求されています。また、絶縁試験電圧はAC実効値で250V以上が要求されています。[消費電流]
AUIインタフェースの項で述べたように、MAUの許容消費電流は最大500mAですが、MAUの消費電流をラベル表示するように規定されています。[信頼性]
MAUの平均故障間隔(MTBF: Mean Time between Failure)として100万時間以上が要求されています。10BASE5の場合、一つのMAUの故障がネットーワーク全体の故障になりかねませんので、信頼性は重要な要素です。[EMC耐性]
EMC耐性(電磁環境耐性)として、次の2つの条件のいずれかに適合するように要求されています。一つは、電界強度2V/mで周波数10KHzから30MHz、電界強度5V/mで周波数30MHzから1GHzの電波環境下(これは、放送局から1Kmの距離の標準的な電界強度さそうです)。もう一つは、1V/nsの立上り特性を持った電圧波形を同軸ケーブルのシールド部とDTEのアース間に注入する方法です(15.6Vの波高値の10MHzのサイン波を50Ωの出力インピーダンスで注入)。同軸ケーブルとコネクタ
要求されるケーブルの特性については、他のケーブルと一緒にまとめて後述しますが、それ以外の項目で10BASE5で特に規定されていることに触れておきます。
[マーキング]
MAU同士の相互干渉が小さくなるようにMAUの取り付けができるように2.5m±5cm間隔でのマーキングが要求されています。[Nコネクタ]
同軸ケーブル同士の延長接続やターミネータ(終端抵抗)の接続にはNコネクタ(IEC Pub 169-16)の使用が規定されています。[タップコネクタ]
同軸ケーブルにタッピングしてMAUを取り付けるためのコネクタで、接続容量2pF以下、接触抵抗50mΩ以下が要求事項です。ル同士の延長接続やターミネータ(終端抵抗)の接続にはNコネクタ(IEC Pub 169-16)の使用が規定されています。[ターミネータ]
ターミネータは同軸ケーブルの両端に接続されますが、その規格としては、0 - 20MHzの測定レンジで50Ω±1%、位相角が5度以下となっています。また、許容電力は1W以上と規定されています。[アース(接地)]
同軸ケーブルはどちらか片端で接地することが推奨されています。これを目的とした接地端子付ターミネータも販売されています。●リピータ装置
ここでは、10BASE5、10BASE2及び10BASE-Tで使用されるリピータ装置に関して規定されています。リピータの機能
リピータはネットワークの各セグメントを物理層で接続するもので、基本的には転送フレーム波形の再生・再送出を行うアンプのようなものです。リピータによってネットワークの距離の延長や10BASE5、10BASE2、10BASE-T等の異種通信媒体の相互通信も可能になります。
複数のポートを備えているものはマルチポートリピータと呼ばれますが、10BASE-Tではハブと呼称する方が一般的です。リピータの主な機能を以下に示します。[信号増幅、タイミング再調整]
信媒体上を伝わってきた信号は、波形が歪んだり、減衰したり、他のノイズの影響を受けたりして劣化しているのが当然です。リピータはこの劣化した信号をもう一度正規の状態に再生します。プリアンブル部は消失ビットを補って通常は56ビット(オクテット)で再生します。また、96ビット長以下のフレームを受信した場合は、ジャムパターンを補い96ビット長のフレームとして出力しなければなりません。[データ転送処理]
複数のポートを持ったリピータ(マルチポートリピータ)では、一つのポートからの入力フレームデータを他のポートにそのままの形式で転送します。フレーム転送遅延は、AUIポート-AUIポート間で8ビット時間(800ns)以下と規定されています。10BASE5もしくは10BASE2用ののMAUを内臓している場合は、更にこれに追加して入力ポート側に6.5ビット時間(650ns)、出力ポート側に3.5ビット時間(350ns)の遅延が認められています。10BASE-Tの場合も同様に、入力ポート側に8ビット時間(800ns)、出力ポート側に5ビット時間(500ns)の追加遅延が認められています。[衝突処理]
リピータは各ポートに接続されたセグメントにおける衝突の発生を監視します。いずれかのポートで衝突を検出すると、他の総てのポートにもジャム信号(Jam)を送出して衝突状態を通知します。衝突ジャムの転送遅延は、AUIポート-AUIポート間で6.5ビット時間(650ns)以下と規定されています。10BASE5もしくは10BASE2用のMAUを内臓している場合は、更にこれに追加して入力ポート側に9ビット時間(900ns)、出力ポート側に3,5ビット時間(350ns)の遅延が認められています。10BASE-Tの場合も同様に、入力ポート側に9ビット時間(900ns)、出力ポート側に5ビット時間(500ns)の追加遅延が認められています。[ジャバー保護機能]
10BASE5と同様のジャバー機能がリピータにも装備されます。仕様も少し変更されており、呼称もJaber Lockup Protectionと保護を強調した言葉が使われています。フレーム転送制限時間は5ms -20% +50%となっています。リピータの機能として、ジャバー保護で送信禁止になったポートは、9.6us - 11.6usの時間経過後、再び送信可能状態にしなければなりません。[自動パーティション]
10BASE-Tのリピータに採用されている機能で、連続衝突回数が異常に多いポートや異常に長い期間衝突が発生しているようなポートを自動的にパーティション(そのポートをリピータの構成から分離する)します。パーティション条件の連続衝突は30回以上、異常衝突時間は0.1ms - 3msの範囲と規定されています。リピータの電気的特性
環境条件的な規定について述べておきます。
[電気的絶縁]
使用環境に応じて、2種類の規定があります。単一の電源供給源に接続された機器で構成されるネットワークで単一のビル内に構築されている場合は500Vrmsで1分間、複数の電源供給源に接続された機器で構成されるネットワークで複数のビルにまたがって構築されている場合は1500Vrmsで1分間と規定されています。[信頼性]
2ポートリピータの場合は平均故障間隔(MTBF)で5万時間以上、2ポートを越えるリピータついては、追加1ポート当たり3.46 x 10-6故障/時間以上の故障が発生しないことと規定されています。
- Ethernetの標準規格(IEEE 802.3)10BASE2
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2019-02-07
10BASE2は、10BASE5より柔軟性のある細い同軸ケーブルを使用し、DTE側に搭載されるインターフェースを直接同軸ケーブルに接続することでコストダウンを狙ったものです。インタフェース側にMAUを内臓することがほとんどですが、AUIインタフェースを備えた単独MAUも存在します。安価ということからCheaper-Netと呼ばれたり、10BASE5に比較して細い同軸ケーブルを使用することからThin-Ethernetと呼ばれたりもします。
10BASE2では、RG-58系の同軸ケーブルを使用し、同軸ケーブルへの接続にはBNCコネクタを用います。ネットワークからDTEへの分岐ポイントには通常T型のBNCコネクタが使用されますが、最近はこれにもF型・E型等のバリエーションがあります。同軸ケーブルのインピーダンスは10BASE5の場合と同じく50Ωで、リピータ無しの場合の最大セグメント長は185mです。また、最少ケーブル長(DTE間)は0.5mで、1セグメント当たりの最大接続MAU数は30台です。
10BASE2用MAU-同軸ケーブル間の電気的特性
10BASE2用MAU-同軸ケーブル間の主要な電気的特性の規格を以下に示します。主要な特性はほとんど10BASE5と同じです。
[入力インピーダンス]
MAUを同軸ケーブル側から見た場合の入力インピーダンスは、容量6pF以下、抵抗100kΩ超と規定されています。これは10BASE5よりゆるやかな規格です。コネクタ部の容量も含めた合計は8pF以下と規定されています。[バイアス電流]
非転送時におけるMAU-同軸ケーブル間のバイアス電流は、電源のON/OFFとは無関係に+2uAから-25uAの範囲にあることと規定されています。電流の流れる方向は、MAUから同軸ケーブル方向が“+”です。[同軸ケーブル上の信号レベル]
同軸ケーブルは電流ドライブ方式でドライブされ、1個のMAUは通常送信時に平均直流電流レベルで-37mAから-45mA、最大ピークで-90mAをドライブします。この電流が両端が50Ωで終端された同軸ケーブルに流れると振幅約2V、平均電圧レベル約1Vの電圧波形となります。この仕様は10BASE5と同じです。DO信号から同軸ケーブル上信号へ変換開始時のビット消失は2ビットまで許容されています。変換遅延時間は、定常時1.5ビット以下と規定されています。また、同軸ケーブル波形からDI信号への変換開始時のビット消失は5ビットまで許容されています。[衝突検出]
衝突発生時には複数のMAUのドライブ電流が重なって平均直流電圧が通常値より下がりますので、これによって衝突状態を検出することができます。規格では、衝突時には平均直流電圧で-2.2Vより低い値を保持できるドライブ能力が要求されており、衝突検出のスレショールド値は、10BASE5の推奨値とは少し違って-1.404Vから-1.581Vの範囲となっています。MAUは衝突検出後9ビット時間(900ns)までにCI信号上に衝突検出信号(CS0: 10MHz)を送出しなければなりません。また、衝突状態が解消された後は20ビット時間(2us)以内に衝突検出信号の送出を停止しなければなりません。 CI信号は、SQEテストとしても利用されますが、そのテスト信号の送出規定は、DO信号上のIDL信号検出から0.6us - 1.6us後に10±5ビット期間です。この仕様は10BASE5と同じです。[ケーブル波形の立上り/立下り時間]
10-90%の立上り/立下り時間が25±5nsで、立上り/立下り時間は2ns以内で一致しなくてはならないと規定されています。これも10BASE5と同じです。[ケーブル波形の高調波成分]
高調波成分も規制されており、第2次・第3次で基本波の20dB以下、第4次・第5次で基本波の30dB以下、第6次・第7次で基本波の40dB以下、他の高次高調波で基本波の50dB以下となっています。これも10BASE5と同じです。[ジャバー機能]
10BASE5と同じジャバー機能が要求されています。規定による制限時間は、10BASE5と同様、最少で20ms、最大で150msになっています。ジャバー保護状態の解除は、その電源ON/OFFもしくは、0.5s ± 50%後に解除してもよいことになっており、10BASE5のようにMAUの電源供給方法による規定の差がなくなっています。10BASE2用 MAUの電気的特性
10BASE2用MAUの主要な電気的特性の規格を以下に示します。
[電気的絶縁]
MAUは同軸ケーブル側とAUIケーブル側の電気的絶縁を提供しなければなりません。両者間の絶縁抵抗は、60Hz測定時に250KΩ超、3MHz - 30MHz測定時に15Ω未満が要求されています。また、絶縁試験電圧は、500Vrms で1分間となっていて、10BASE5より厳しい要求です。[消費電流]
AUIインタフェースの項で述べたように、MAUの許容消費電流は最大500mAです。また、外付タイプのMAUではその消費電流をラベル表示するように規定されています。[信頼性]
MAUの平均故障間隔(MTBF: Mean Time between Failure)として10万時間以上が要求されています。10BASE5の場合より、一桁低い値ですが、コスト見合いの設定ではあります。[EMC耐性]
10BASE5と同様に、EMC耐性(電磁環境耐性)として、次の2つの条件のいずれかに適合するように要求されています。繰り返しになりますが、一つは、電界強度2V/mで周波数10KHzから30MHz、電界強度5V/mで周波数30MHzから1GHzの電波環境下。もう一つは、1V/nsの立上り特性を持った電圧波形を同軸ケーブルのシールド部とDTEのアース間に注入する方法です。同軸ケーブルとコネクタ
要求されるケーブルの特性については、他のケーブルと一緒にまとめて後述しますが、それ以外の項目で10BASE2で特に規定されていることに触れておきます。
[BNCコネクタ]
同軸ケーブルの接続・分岐やターミネータ(終端抵抗)の接続にはBNCコネクタ(IEC Pub 169-8)の使用が規定されています。[ターミネータ]
ターミネータは同軸ケーブルの両端に接続されますが、その規格としては、0 - 20MHzの測定レンジで50Ω±1%、位相角が5度以下となっています。また、セグメント当たりの接続可能なMAUの合計数が10BASE5より少ないので、許容電力は0.5W以上と10BASE5より低い値から許容されています。[アース(接地)]
同軸ケーブルはどちらか片端で一点接地することが推奨されています。また、BNCコネクタ部の金属部がむき出しになった箇所が不用意に接地、あるいは他の電気系統に接触しないように、必要に応じてBNCコネクタを絶縁カバーで覆うことが推奨されています。[静電放電]
静電放電用の回路を設ける規定が追加されています。同軸ケーブルのシールド部とDTEのアースを1MΩ 0.25Wの抵抗を介して接続します。耐圧は750Vdc以上が要求されています。より、手でさわる機会が増えたことに対する保護が想定されています。マルチセグメントのネットワーク構成
CSMA/CDにおけるネットワーク構築の基本は、衝突検出を確実にするためのラウンドトリップ遅延を計算することにありますが、通常の構成においては、各セグメントの最大長制限にさえ気をつければ、以下のリピータ段数制限を考慮すれば十分でしょう。
[最大構成は4リピータ&5セグメント]
シングルコリジョンドメイン内(衝突検出を行うネットワーク範囲)におけるリピータ段数は、4段まで可能です。つまり、4リピータ&5セグメントが最大構成となります。[同軸系の最大構成は2リピータ&3セグメント]
10BASE5や10BASE2のような同軸セグメントは、最大3セグメントに限定されていますので、同軸だけでの構成は2リピータ&3セグメントが最大構成となります。[10BASE-Tの最大構成は4ハブ&5セグメント]
10BASE-Tではそのセグメントはリンクセグメントになりますので、4ハブ(リピータ)&5セグメントが最大構成になります。[異種セグメント構成も4リピータ&5セグメント]
10BASE5、10BASE2及び10BASE-T等が混在する構成も4リピータ&5セグメントが最大構成となります。但し、同軸系は最大3セグメントまでの制限がありますので、その場合の他のセグメントは10BASE-T、10BASE-FやFOIRLのようなリンクセグメントでなければなりません。
- Ethernetの標準規格(IEEE 802.3)10BASE-T
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2019-02-07
10BASE-Tは、電話線として用いられているツイストペア線を通信媒体に使用し、ハブと呼ばれるマルチポートリピータを中心にネットワークが構成されます。
配線が容易なこと、安価なこと、10BASE5等と違って個々のDTE及びポートの不良がネットワーク全体に波及しにくいなどの点が評価されて爆発的に普及しています。
10BASE-Tのセグメント長は最大100mです。10BASE-Tのセグメントはリンクセグメントですので、ハブ(リピータ)の接続段数は4段までが可能ですあり、収容端末数の多いネットワークを比較的容易に構成することができます。また、ハブがなくてもDTE同士の対向通信であればクロスケーブルで可能ですので、パソコン間の高速通信の代替えとしての利用も考えられます。最近、パソコン業界では次世代のシリアルバスの論議が盛んですが、どれもまだまだこれからの技術ばかり。実績、低コスト、信頼性、高速性(そこそこのスピードではありますが)と三拍子も四拍子も揃った10BASE-Tを放って置く手はありません。10BASE-Tこそ、ネットワークに限らず、90年代における次世代RS-232Cとしての捉え方もあるのではないでしょうか。
10BASE-Tについては、少し詳しく見てみましょう。ツイストペア線用コネクタ
8ピンのモジュラージャックコネクタ(RJ48)が使用されます。送信用に1ペア、受信用に2ペアの合計2ペア(2対4線)が必要です。
10BASE-Tではツイストペア線によるクロス接続でMAU同士の通信が可能ですが、ハブー端末(MAU)間ではストレートケーブル接続の方が便利なので、通常ハブ側は内部でクロス接続にしておくのが普通です。このように内部でクロス接続を施したモジュラーコネクタポートには、“X”表示を施してそれを明示しなければなりません。
絶縁耐圧
DTE側AUIと10BASE-Tのツイストケーブル側コネクタ間の絶縁は、少なくとも以下の内のひとつを満足するように要求されています。
- 1500Vrms、50Hz/60Hz、1分間 (IEC Pub950)
- 2250Vdc, 1分間 (IEC Pub 950)
- 2400Vパルス電圧を1回毎に極性反転させながら連続10回。パルス間隔は1秒以上でパルス波形は1.2/50us (IEC pub 60)
テスト中に絶縁破棄が生じてはいけませんし、テスト後も500Vdcによる絶縁抵抗測定で2MΩ以上の絶縁抵抗であることが要求されています。
送信動作
AUIインタフェースのDO信号に対応して10BASE-T信号のTD信号がドライブされます。差動信号の対応としては、DO-A信号がTD+信号に、DO-B信号がTD-信号に対応しています。
[変換遅延とビット消失]
DO信号からTD信号へ変換開始時のビット消失は2ビットまで許容されています。また、TD信号における一番最初のビットについては、位相のずれや信号振幅の規格はずれが許容されていますが、2ビット目からは正規のタイミングで送出しなければなりません。変換遅延時間は、定常時で2ビット以下と規定されています。連続する2つのパケットでは、各パケットの変換遅延とビット消失の合計の差が2ビット時間(200ns)を越えてはいけないことになっています。[アイドル状態]
送信完了後、通信していない状態がアイドル状態ですが、フレームの終わりを示すためにアイドル状態に移行するための手順がTP_IDL信号として規定されています。TP_IDL信号波形では、波形が一度-50mVより低くなった後は+50mVを越えてはならないという制限があります。この信号規定により、フレームの送出完了後のTD回路は必ず一旦は“High”に遷移してから終了することになります。無送信状態(サイレント状態)におけるTD信号の差動出力は±50mVと規定されています。[リンクパルス]
10BASE-T特有の機能で、データを送信していないでも定期的にTD信号上にリンクパルスと呼ばれるパルス信号を送出することによってセグメントの接続状態を監視するしくみ(リンクテスト:Link Integrity Test)が提供されています。リンクパルス波形の規定もTP_IDL信号の場合と同様に波形が一度-50mVより低くなった後は+50mVを越えてはならないという制限があります。リンクパルスの送出周期は、16±8msと規定されています。リンクテストの詳細については後述しますが、100BASE-Tの規格ではこのリンクパルスの仕様を拡張して10BASE-Tと100BASE-Tの区別が自動的にできる機能がオプション機能として採用されています。この機能は、オートネゴシエーションもしくはN-Wayとも呼ばれています。[送信差動電圧波形]
TD信号上の送信電圧波形の擬似ツイストペア線ネットワーク回路を使用して規定されています。電圧波形の規定に関しては、電圧値に対して±10%の範囲が許容値として認められています。[送信最大差動出力電圧]
100Ω負荷接続時にあらゆるデータシーケンスで2.2V - 2.8Vと規定されています。[高次高調波成分]
DO回路からのオール1のマンチェスタ符号データの注入テストで、基本波以外の高次高調波は27dB以下であることが規定されています。[送信差動出力インピーダンス]
規格としては、規定のツイストペア線(インピーダンス: 85Ω - 111Ω)接続時に、反射成分が15db以下とリターンロスとして定義されています[出力タイミングジッタ]
擬似ツイストペア線ネットワークを100Ωで終端したものを接続して測定した場合でDO回路の±3.5ns、直接100Ω終端して測定した場合で±8nsと規定されています。[送信出力インピーダンスバランス]
コモンモードとディファレンシャルモードのインピーダンスバランスも規定されています。インピーダンスバランスの定義は20log10(Ecm/Edif)で、これが 29 - 17log10(f/10)dBを越えないことと規定されています。ここで“f”は測定周波数(MHz)で、1.0MHzから20MHzの範囲で測定します。[コモンモード出力電圧]
50mV以下が規定です。[コモンモードリジェクト]
インピーダンスバランスの測定回路を使用して、コモンモード信号を注入します。注入するEcm信号は波高値15Vで周波数10.1MHzのサイン波です。このテスト環境下で、データ転送時のEdifが100mVを越えないことと、Ecm注入によるジッタ増加が1.0ns以下であることが要求されています。[送信出力の故障耐性(フォルトトレランス)]
TD回路のTD+とTD-を短絡してもダメージを生じてはいけません。短絡電流は300mAを越えてはいけませんし、短絡状態が解除された場合は通常動作に戻らなければなりません。 また、コモンモードインパルス電圧に対する耐性も求められています。Ecmとして1000Vの電圧を注入します。パルス波形は、0.3/50usです(IEC Pub 60)。受信動作
この10BASE-TのRD信号に対応してAUIインタフェースのDI信号がドライブされます。差動信号の対応としては、DI-A信号がRD+信号に、DI-B信号がRD-信号に対応しています。
[変換遅延とビット消失]
RD信号からDI信号へ変換開始時のビット消失は5ビットまで許容されています。また、DI信号における一番最初のビットについては、位相のずれや無効データであることが許容されていますが、2ビット目からは正規のタイミングで送出しなければなりません。変換遅延時間は、定常時で2ビット以下と規定されています。連続する2つのパケットでは、各パケットの変換遅延とビット消失の合計の差が2ビット時間(200ns)を越えてはいけないことになっています。[受信差動入力信号]
タイミングジッタが±13.5nsまでの入力信号は受信し、DI信号に変換しなければならないと規定されています。また、この変換時に±1.5ns以上のジッタが追加されてはいけません。[受信差動入力ノイズ耐性]
通常のマンチェスタ符号信号やリンクパルスはちゃんと受信できなければなりませんが、一方で、以下の信号については受信しないように規定されています。- 3ポールで15MHzで3dBのカットオフ周波数に設定された低域通過型バターワースフィルタの出力で最大振幅が300mV未満のもの。
- ピーク値振幅(peak-to-peak)で6.2V未満で周波数が2MHz未満の連続波。
- 周波数が2MHzから15MHzの範囲で、ピーク値振幅が6.2V未満の1サイクルのサイン波。発生間隔は4ビット時間(400ns)で、位相は0度もしくは180度。このテスト波形は(a)で示したフィルタを通した時にその出力は300mVになるはずである。
[アイドル状態の検出]
TP_IDL信号によるアイドル状態への移行(TP_IDLから無信号状態)は、最後の“Low”から“High”への遷移から2.3ビット時間(230ns)以内に検出しなければなりません。この検出が波形のリンギングやオーバーシュート等で誤動作しないようにとの注意書きもあります。[受信差動入力インピーダンス]
送信差動入力インピーダンスと同様、規格としては、規定のツイストペア線(インピーダンス: 85Ω - 111Ω)接続時に、反射成分が15db以下とリターンロスとして定義されています。[コモンモードリジェクト]
コモンモード信号を注入します。この条件下で波高値25Vで周波数500KHz以下、立上り/立下り時間(40%-80%)が4nsより遅い矩形波をEcmとして注入します。この環境下で、DI信号上のジッタ増加は2.5ns以下でなくてはなりません。[受信入力の故障耐性(フォルトトレランス)]
RD回路のRD+とRD-を短絡してもダメージを生じてはいけません。短絡電流は300mAを越えてはいけませんし、短絡状態が解除された場合は通常動作に戻らなければなりません。 また、コモンモードインパルス電圧に対する耐性も求められています。Ecmとして1000Vの電圧を注入します。パルス波形は、0.3/50usです(IEC Pub 60)。ループバック機能
10BASE-TのMAUでは、TD回路にデータ送出中にRD回路上に何もデータが受信されない場合(非衝突状態)は、DI回路にDO回路のデータをループバックするように規定されています。
DO信号からDI信号へ変換開始時のビット消失は5ビットまで許容されています。また、DI信号における一番最初のビットについては、位相のずれや無効データであることが許容されていますが、2ビット目からは正規のタイミングで送出しなければなりません。変換遅延時間は、定常時で1ビット以下と規定されています。
衝突検出機能
10BASE-TのMAUでは、リンクテストがパス状態の間は、DO回路とRD回路に同時にデータが存在する場合を衝突状態として認識しなければなりません。
衝突状態が継続している間は、CI回路上に衝突検出信号(CS0: 10MHz)を出力しますが、最初の出力は衝突検知から9ビット時間(900ns)以内でなければなりません。また衝突検出信号は、DO信号もしくはRD信号がアイドル状態になった場合には、9ビット時間(900ns)以内に解除しなくてはなりません。
衝突検出信号がCI回路上に送出された場合には、9ビット時間(900ns)以内にRD回路上のデータをDI回路上に送出しなければなりません。また、衝突の解消がRD信号のアイドル状態への移行で行われ、DO回路上にまだデータが存在する場合は、9ビット時間(900ns)以内にDO回路上のデータをDI回路上にループバック送出しなければなりません。
SQEテスト機能
SQE(Signal Quality Error)テストは、衝突検出回路の正常動作を確認するために、フレーム転送直後にフレーム間ギャップの時間を利用して擬似的に送出される衝突検出信号のことです。
10BASE-TのMAUは、DTE接続ではSQEテスト機能を実行しなければなりませんが、リピータ接続では逆にSQEテスト機能を実行してはいけません。リピータによってSQEテスト信号がリピートされると、フレーム間ギャップ及び大きさが規格外れのパケットの発生が頻発しますので、ネットワークへの悪影響は多大なものがありますので注意して下さい。
SQEテスト信号の送出規定は、DO信号上のIDL信号検出から0us - 1.6us後に10±5ビット期間です。また、SQEテスト信号はリンクテストがOKになっていない場合は送出されません。
ジャバー機能
何等かの障害により、MAUがデータを長時間送信しっぱなしになってしまう状態を回避するためにジャバー(Jabber)と呼ばれる機能をハードウェアでMAU内に実装することが要求されています。この機能は、送信時間を監視し所定の時間を超過した場合は強制的に送信を停止させるためのものです。規定による制限時間は最少で20ms、最大で150msになっています。
ジャバー機能により送信が停止した場合は、MAUは同時にDO回路からD回路Iへのループバック機能も停止し、衝突検出信号をCI回路上に出力しなければなりません。
このジャバー保護状態はDO回路が所定の期間アイドル状態になるまで継続し、この期間はジャバー解除時間(Unjab Time)と呼ばれます。ジャーバー解除時間は、0.5ms ± 0.25msと規定されています。
リンクテスト
リンクテスト(Link Integrity Test)は、セグメントが正しく接続されていることを確認するために設けられている機能で、10BASE-Tの特徴の一つです。 10BASE-TのMAUは、接続を確認するためにRD回路上のフレームデータ及びリンクパルスを監視します。もし所定の期間、データもリンクパルスも受信しなかった場合は、MAUはリンクテストのフェイル状態(Link Test Fail)になります。この待ち時間は、リンクロス時間(Link Loss Time)と呼ばれ、50msから150msの間と規定されています。
リンクテストのフェイル状態では、TD回路及びDI回路ともアイドル状態になりますが、フレームデータを受信するかもしくはリンクパルスを所定回数連続受信すると、リンクテストのパス状態(Link Test Pass)に移行します。このリンクパルスの連即受信回数は、2以上10以下と規定されています。
もう一つ別の規定として、最大リンクテスト期間と最少リンクテスト期間があり、最大リンクテスト期間が25msから150msの間、最少リンクテスト期間が2msから7msの間と規定されています。最大リンクテスト期間内に受信されたリンクパルスのみが連続リンクパルスとしてカウントされなければなりません。また、もし最少リンクテスト期間内にリンクパルスが受信された場合は、リンクテストのパス状態の時はこれを無視し、リンクテストがフェイル状態のときは連続リンクパルスのカウンタをゼロにリセットしなければならない規定となっています。
MAUは、リンクテストがパス状態に無い場合は、データの送受信、ループバック、衝突検出、SQEテストの各機能を停止しなければなりません。また、リンクテストのパス状態をLED等で表示する場合は、パス状態を緑色表示にすることが推奨されています。
10BASE-T用MAUのAUIインタフェース
10BASE-T用MAUのAUIインタフェースも10BASE5等と基本的には同じですが、10BASE5でオプション機能として定義してあったCO回路やCI回路上のCS1信号(3.2.6. AUIインタフェースを参照)はサポートしないことを明示してあります。
- EthernetとIEEE802.3の違い
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2019-02-07
Ehernet(Version 2.0)とIEEE 802.3には、いくつかの違いがみられます。
- 物理層の多様化とデータリンク層の副層化
- MAUとAUIのインタフェース
- SQEテスト信号のタイミング
- フレーム形式(タイプフィールドとデータ長フィールド
物理層の多様化とデータリンク層の副層化については既に述べましたのでここでは説明を省略しますが、他の部分についてその違いをみてみましょう。
MAUとAUIのI/Fの違い
図14にMAUとAUIのインタフェース信号の違いを示します。Ethernetでは、MAUのことをトランシーバ、AUIとのインタフェースケーブルをトランシーバケーブルと呼びます。
ここでの違いは、Ethernetでは“予約”してあった箇所が個々の差動信号対用のシールドとして定義されたことと、オプションとしてCO信号が定義されたこです。他の信号については互換性がありますので、上位方向の互換性は保たれていることになり、もうほとんど意味はないと思われますが、ハードウェア的にはEthernet準拠機器とIEEE 802.3準拠機器は混在使用が可能です。
SQEテスト信号のタイミング
SQEテスト信号は、EthernetではCPTテスト信号( CPT: Collision Presence Test)、もしくはハートビート信号(Heartbeat)と呼ばれています。
このテスト信号は、衝突検出回路の正常動作を確認するために設けられた機能で、パケットの送信完了直後にパケット間ギャップの空き時間を利用して発行される擬似衝突信号のことです。この信号の発生タイミングには、EthernetとIEEE 802.3で若干の違いがありますので、その違いを図15に示しておきます。
SQE信号は、MAUからDTEへ対してのみ発行される信号ですので、同軸ケーブル等の通信メディア自体には何の影響もおよぼさずネットワークに対する悪影響もありませんが、リピータだけは例外です。
リピータに接続するMAUのSQEテストを“有効”にしてはいけません。リピータはその機能として、衝突発生時には各ポートにジャム信号を送出するのを思い出して下さい。リピータにSQEテスト信号が入力されるとこのジャム信号が発生し、ネットワークのトラフィック状況が極端に悪化します。その結果として、ネットワークのパフォーマンスが極端にダウンしてしまうわけです。規格上はその使用を義務つけらえれているSQEテストですが、そのメリットよりもリピータへの誤接続等のデメリットの方が目立ちがちなのが残念です。
忘れがちですが10BASE-Tのハブはリピータの一種です。10BASE-TのハブのAUIインタフェースにMAUを接続する場合は、くれぐれもそのMAUのSQEテスト機能を“禁止”状態にしておくことを忘れないように注意して下さい。
実際、SQEテストのチェックは故障診断プログラム等の特別なプログラムでのみサポートされているのが現状で、Netware等の通常のLANドライバではSQEテストの結果は一般的に無視されています(メーカサイドとしては、SQEテスト設定のON/OFFによる余分なトラブルコールを避けたい結果と思われますが)。フレーム形式の違い
先に述べたEthernetとIEEE 802.3の違いは、いわゆる誤差範囲ともいうべき違いであり、両者間の相互オペレーションを決定的に疎外するものではありませんでした。ところが、“タイプフィールド”と“データ長フィールド”というフィールド定義の違いによるフレーム形式の差は、両者間の差異を決定的なものにしてしまいました。
それでは、IEEE 802.3ではどうしてこのフィールド定義が変更されたのでしょうか。残念ながら、筆者自身が明確な回答に出会っていませんし、自分でも論理的に説明できませんので、この疑問には答えることができません。EthernetとIEEE 802.3を区別するため、すなわちEthernetをそのまま“国際標準”とすることへの抵抗といった見方の方が実際には当たっているのかも知れません。
タイプフィールドはプロトコルを区別するために使用されていました。例えば、TCP/IPのIPプロトコルでは“0800H”が、NetwareのIPXプロトコルでは“8137H”がタイプフィールドにセットされます。
IEEE 802.3では、プロトコル区別は802.2 LLCで規定されます。802.2 LLCの説明は、紙面の都合上省略しますが、プロトコル種別用のフィールドが7ビット分しかありませんので、Ethernetのタイプフィールドの値をそのまま使用することはできません。
そこで考案されたのがSNAP(SubNetwork Access Protocol)です。SNAPフィールドは5オクテットで構成され、3オクテットのLLCフィールドに続いて配置されます。 NetwareのIPXパケットを例にとって、種々のフレーム形式を図16に示しておきます。タイプフィールドとデータ長フィールドの違いはソフトウェア処理上の問題ですので、IEEE 802.3準拠のハードウェア機器をEthernet準拠のフレーム形式で使用することには何の問題もありませんし、種々のフレーム形式を同一ネットワーク上に混在させることも可能です。しかし、当然のことではありますが、フレーム形式が異なる端末間では通信はできませんので注意して下さい。
- LSIに関連したトラブル事例
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2019-02-07
LAN用LSIを使用すれば規格適合のほとんどの面はクリアできます(メーカによっては規格割れになる場合もないとは言えませんが)。しかし、実際のネットワーク環境は規格がすべてではありません。
規格で明確に定義されていない箇所は、メーカ間でもその挙動がまちまちです。例えばプリアンブル部+SFD部は合計64ビットが標準ですが、何ビットのプリアンブルがあれば実際に受信できるのでしょうか。また、フレーム間ギャップは最少9.6usですが、実際はどれだけ短いフレーム間ギャップまで受信できるのでしょうか。
こうした言わば実力値的な要素は、データシート上に記載されていることはまれですが、メーカー間格差があるのも事実です。完成度の高い製品を目指すためには、採用LSIの 選定時にこうした規格外の実力値的要素にも気を配るのが重要ではないでしょうか。LSI評価には、その規格適合を確認するのはもちろんですが、発生する可能性のある規格外要素に対する挙動も確認するように心掛けましょう。
Ethernetでは、以下のような項目が該当します。- 規格より小さいパケット、あるいは極端に大きなパケットを最大速度で連続発生させる。フレーム間ギャップを規定より短くする。
- 種々のエラーパケットを連続発生させる。
- 信号レベルを規定より小さくする、あるいは大きくする。
- 送信基準クロックを規定より早くする、あるいは遅くする。
発生障害の想定及びその組み合わせは膨大な量ですので、完全な試験をすることは難しいですが。頑張ってみて下さい。そうした努力は、障害発生の予防になると同時に障害要因の絞り込みにも役立ち、決して無駄にはなりません。
以下に筆者のトラブル経験を参考として紹介しておきます。ハブにおける事例
一番目は、ハブ用LSIに起因したトラブル事例を紹介します。
ある特定メーカのハブだけ端末を直接接続するとデータ転送ができないというものでした。別のメーカのハブであればOKとのことでしたので、当初は信号レベルの規格不適合による相性問題として調査を開始したのですが、原因は別の要素にありました。その端末に搭載されていたLANカードから送信されるフレームのプリアンブル部が規格よりかなり短いものだったのです(約32ビット)。このプリアンブルの短いフレームをA社製LSIは受信し、B社製LSIは無視してしまうのです。その結果として、採用LSIの差により挙動の違うハブが存在してしまう訳です。
ユーザの視点に立てば、エラーフレームで無い限り、プリアンブル部が短くてもちゃんと受信できる方が有用であることは言うまでもありません。LANカードにおける事例
次に紹介するのはLANカードの例です。衝突が多いネットワークで特定の端末だけパケットの受信ロスが多いというものでした。
これも根本原因は別のところにあったのですが、挙動の差はLAN用LSIの特性の差にありました。元々の原因は、あるメーカのLSIからの送信パケットが衝突後の再送時にはそのフレーム間ギャップが規定より短くなる場合があるというものです。
これ自体はバグなのですが、このフレーム間ギャップの短いフレームの受信能力がLSIメーカによって差があるため、ある端末では受信できて、ある端末では受信できないという現象が発生したわけです。Ethernetのキャプチャー効果
トラブルではありませんが、Ethernetでは衝突発生時の再送処理アルゴリズムに起因したキャプチャー効果と呼ばれる現象が発生する可能性があるので、ここで紹介しておきます。
キャプチャー効果とは、公平であるべき送信アクセス件の調停がある端末に偏る可能性があるということです。
連続して送信可能なたくさんの送信フレームを持った2台のネットワーク端末を想定して下さい。この2台が同時に送信を開始したとします。すると衝突が発生するわけですが、うまくいけば次の回、悪くても数回の衝突の後にはどちらかの端末が送信権を得て送信に成功します。ここで送信に成功した端末を“A”、衝突送信待ちにある端末を“B”としましょう。送信に成功した端末“A”は次のフレームの送信を開始し、これが衝突送信待ち状態にある端末“B”と再び送信アクセス権で競合します。ところで皆さんは、以前に説明したEthernetにおける再送調停アルゴリズムを覚えているでしょうか。このアルゴリズムでは、衝突回数の多い端末の平均待ち時間は長くなるのでしたね。
つまり、新規にフレームの転送を開始した端末“A”の方が、衝突再送待ちを繰り返している端末“B”より、送信アクセス権を得る確率が高いのです。ここで再び端末“A”が送信アクセス権を得ると端末“B”は衝突回数が累積してしまって、更に送信アクセス権を得難い状況に追いやられれてしまいます。これが繰り返されると結果として端末“A”は、端末“B”より優先的なアクセス権を持ってしまうのと同じことになるのです。
このキャプチャー効果が実際の環境でどの程度意味を持つのかはケースバイケースで判断できませんが、可能性のある一つの現象として覚えておいて損はないでしょう。ネットワーク端末のデータ転送能力が高い程キャプチャー効果は起こりやすくなりますので、ネットワーク端末の能力向上が著しい昨今、身近な現象としてその存在がクローズアップされてくるかも知れません。
Ethernet関連のケーブル
Ethernet関連のケーブルは、多くのケーブルメーカーから規格適合品が標準品として供給されていますので一般ユーザが詳細仕様を気にする必要はありませんが、その主な要求仕様を図18にまとめておきます。
また、ツイストペア線に関して、そのカテゴリ分けを図19に示しておきます。最近では、100Mbpsまで使用できるカテゴリ5のツイストペア線が敷設の中心となっています。
ツイストペア線における重要な特性は、減衰量と近端漏話減衰量(NEXT: Near End Cross Talk)です。減衰量は信号レベルに影響し、近端漏話減衰量はノイズの主な原因になります。この両者の差が、SCR(Signal to Cross Talk Ratio)と呼ばれ、伝送路のSN比を想定する上での一つの指針となります。SCRは周波数が高くなるにつれて減少傾向にあり、これによって使用上限周波数が決定されます。
ケーブルに関しては、よほどの粗悪品でない限り極端なメーカ間格差はありませんが、LANにおける不具合の大半はケーブル部分関係が占めるとも言われています。もちろん、ケーブル自体よりもコネクタやトランシーバの取り付け工事に関連した不具合が多いのですが、たかがケーブルされどケーブルです。ネットワークを支える根幹部分であり、最重要アイテムであることを再認識して下さい。
信頼のおけるケーブルと信頼のおける設置作業が、信頼のおけるネットワーク構築の第一歩です。
米国では、電話・ネットワーク関連のビル内における配線工事のガイドラインとして、ツイストペア線だけではなく光ファイバまで含めたものがANSI/TIA/EIA-568A Commercial Building Telecommunications Cabling Standardとしてまとめられています。その解説は省略しますが、一度目を通されることをお奨めします。
- LANカードの設計アーキテクチュア
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2019-02-07
インテリジェント vs ノンインテリジェント
LANカード内にCPUを搭載したものをインテリジェントタイプ、CPUを搭載しないものをノンインテリジェントタイプとして区別しますが、ユーザにとってはどのようなメリットがあるのでしょうか。
10年程前は、一部の高級機は別として普及価格帯のパソコンの処理能力はいまより数段低いものでした。また、EMS/XMS等のメモリ管理手法も発展途上にあり、搭載されているメモリ容量自体も小さいものでした。そうした環境下でTCP/IP等のメモリ食いのアプリケーションを動作させようとすると、主にメモリ上の制限からインテリジェントタイプのものを使用せざるを得なかったわけです。
当時は、LANカードに搭載されているCPUとパソコン側に搭載されているCPUの速度差がほとんどなかったため、インテリジェントタイプのLANカードは、全体としてのパフォーマンス向上にも役立ちました。
ところが、パソコン側のCPUのパフォーマンスの向上が驚異的なスピードで進んだ結果、LANカードに搭載されているCPUとの速度差が広がってしまい、パソコン側のCPUに直接処理させるノンインテリジェントタイプの方がパフォーマンスが高い結果が出るようになってしまいました。確かに、クライアント端末側に使用するLANカードはノンインテリジェントタイプで十分でしょう。しかし、サーバ側に使用するLANカード、それも1台のサーバに複数枚のLANカードを実装するような状況では、インテリジェントタイプのLANカードの採用を検討する価値があります。サーバ/クライアントシステムというのは、本質的にサーバに負荷が集中するシステムです。サーバ本来の業務にサーバのCPU負荷を割くことができるように、インテリジェントタイプのLANカードを使用したI/O負荷分散のアプローチは重要です。
メモリマップ vs I/Oマップ
LANカード内のパケットバッファメモリに対するデータのアクセスをメモリとして実行するか、I/Oとして実行するかの設計観点です。
メモリマップの方がより高速アクセスできるような設計が可能ですが、それなりのコストも発生します。また、パソコンにおける1Mバイト以下のメモリ空間(DOSメモリ空間)は従来余裕がなく、EMSやUMBの普及に伴い益々その空間の自由度は減少傾向にありますので、LAN用としてメモリ空間を占有するのは好ましくありませんし、コンフィギュレーションンの自由度がほとんどありません。一方のI/Oマップは、80386以上でサポートされているブロックI/O命令等を使用すれば十分高速にアクセスできますし、コンフィギュレーションの自由度も高いので、現在ではI/Oマップの方が主流です。
直接アクセス vs DMAアクセス
これもアクセススピードに関連した課題です。従来のパソコンに搭載されているDMA機能は、そのデータ転送速度がそれほど早くありませんでした。
CPUのパフォーマンス向上に伴って、CPUからの直接アクセスの方がより早いアクセススピードを提供できるようになった結果、DMAアクセスは一時期有効なアクセス手法とは言えなくなってしまいました。
しかし、PCI等の高速バスの登場と共に、再びDMAアクセスが浮上してきました。バスマスターとして動作させるDMAは十分な高速化が期待できるからです。バスマスターに特化したLANコントローラLSIも登場してきています。バスマスターDMAアプローチは、CPUメモリをそのままパケットバッファメモリとして利用できますのでシステムとしての設計自由度は高いのですが、コントローラLSI自体が高価なのが難点です。
LANカードの業界標準
最近の機器はほとんどそうですが、LANカードもハードウェア単体では意味をなしません。それを制御するソフトウェアがあってこそ初めてその機能を発揮できるのです。そして、そのソフトウェアにも階層的アプローチがなされています。
ハードウェアを直接制御し、ハードウェアそのものは上位層プログラムから隠す機能を担うのがドライバーと呼ばれるソフトウェアです。ドライバーソフトは、LAN OS毎に標準仕様が用意されています。Novell社のNetware向けのODI(Open Datalink Interface)仕様、Microsoft社のNDIS(Network Driver Interface Specification)仕様、TCP/IP関係のソフトで使用されるFTP社のPD(Packet Driver)仕様等が主なものです。これらのドライバソフトはいずれも、複数のプロトコルに対応できる構造になっています。一方、これら多数のOS用にそれぞれのドライバをバージョンアップも含めて独自のハードウェアで対応していくのには非常に多くの労力が必要になります。また、逆にLAN OS側にとっても標準的なハードウェアが存在することはPC/ATの存在を例にとるまでもなく有効なことです。 そのような状況から生まれたLANカードにおける一つの業界標準がNovell社のNetwareの標準採用LANカードであるNE2000です。
NE2000は、DP83902系のコントローラを中心に構成され、最近ではNS社よりそのワンチップ版としてDP83905(AT/LANTIC)も出荷されています。
その構成は単純で16KバイトのバッファRAM、バッファRAMと同じ空間にマッピングされたMACアドレス用のROM、I/Oデコーダで構成されています。アクセス方式はI/Oマップ方式で、連続した32アドレス空間を必要とします。これらNE2000互換として必要なハードウェア仕様を図17に示します。業界標準はそれなりに重要ですが、そればかりに頼って自前でドライバをサポートしていないようなLANカードを選定してはいけません。互換はあくまで互換であり、万一トラブルが発生した場合には、ソフト側から“ハードウェアの互換性に問題があります”と一蹴されてしまいます。
ちゃんとしたシステムを組む場合には、ドライバの不具合にきちんと対処できるメーカを選定することが重要です。ハードウェアの組み合わせとソフトウェアの組み合わせが複雑に影響しあうLAN関連のアプリケーションでは障害の切りわけ自体が大変な作業ですし、障害切りわけ後の対処にも互換のみに頼っているところとそうでないところでは歴然とした差があります。
一見、どれも同じように見えるLANカードですがマルチプロトコル環境下で高トラフィックをかけて試験すると、そのハードウェア及びドライバーソフトの不出来の差が浮かび上がってくるものです。
- Ethernet関連のケーブル
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2019-02-07
Ethernet関連のケーブルは、多くのケーブルメーカーから規格適合品が標準品として供給されていますので一般ユーザが詳細仕様を気にする必要はありませんが、その主な要求仕様を図18にまとめておきます。
また、ツイストペア線に関して、そのカテゴリ分けを図19に示しておきます。最近では、100Mbpsまで使用できるカテゴリ5のツイストペア線が敷設の中心となっています。
ツイストペア線における重要な特性は、減衰量と近端漏話減衰量(NEXT: Near End Cross Talk)です。減衰量は信号レベルに影響し、近端漏話減衰量はノイズの主な原因になります。この両者の差が、SCR(Signal to Cross Talk Ratio)と呼ばれ、伝送路のSN比を想定する上での一つの指針となります。SCRは周波数が高くなるにつれて減少傾向にあり、これによって使用上限周波数が決定されます。
ケーブルに関しては、よほどの粗悪品でない限り極端なメーカ間格差はありませんが、LANにおける不具合の大半はケーブル部分関係が占めるとも言われています。もちろん、ケーブル自体よりもコネクタやトランシーバの取り付け工事に関連した不具合が多いのですが、たかがケーブルされどケーブルです。ネットワークを支える根幹部分であり、最重要アイテムであることを再認識して下さい。
信頼のおけるケーブルと信頼のおける設置作業が、信頼のおけるネットワーク構築の第一歩です。
米国では、電話・ネットワーク関連のビル内における配線工事のガイドラインとして、ツイストペア線だけではなく光ファイバまで含めたものがANSI/TIA/EIA-568A Commercial Building Telecommunications Cabling Standardとしてまとめられています。その解説は省略しますが、一度目を通されることをお奨めします。