Ethernetの標準規格(IEEE 802.3)10BASE-T
10BASE-Tは、電話線として用いられているツイストペア線を通信媒体に使用し、ハブと呼ばれるマルチポートリピータを中心にネットワークが構成されます。
配線が容易なこと、安価なこと、10BASE5等と違って個々のDTE及びポートの不良がネットワーク全体に波及しにくいなどの点が評価されて爆発的に普及しています。
10BASE-Tのセグメント長は最大100mです。10BASE-Tのセグメントはリンクセグメントですので、ハブ(リピータ)の接続段数は4段までが可能ですあり、収容端末数の多いネットワークを比較的容易に構成することができます。また、ハブがなくてもDTE同士の対向通信であればクロスケーブルで可能ですので、パソコン間の高速通信の代替えとしての利用も考えられます。
最近、パソコン業界では次世代のシリアルバスの論議が盛んですが、どれもまだまだこれからの技術ばかり。実績、低コスト、信頼性、高速性(そこそこのスピードではありますが)と三拍子も四拍子も揃った10BASE-Tを放って置く手はありません。10BASE-Tこそ、ネットワークに限らず、90年代における次世代RS-232Cとしての捉え方もあるのではないでしょうか。
10BASE-Tについては、少し詳しく見てみましょう。
ツイストペア線用コネクタ
8ピンのモジュラージャックコネクタ(RJ48)が使用されます。送信用に1ペア、受信用に2ペアの合計2ペア(2対4線)が必要です。
10BASE-Tではツイストペア線によるクロス接続でMAU同士の通信が可能ですが、ハブー端末(MAU)間ではストレートケーブル接続の方が便利なので、通常ハブ側は内部でクロス接続にしておくのが普通です。このように内部でクロス接続を施したモジュラーコネクタポートには、“X”表示を施してそれを明示しなければなりません。
絶縁耐圧
DTE側AUIと10BASE-Tのツイストケーブル側コネクタ間の絶縁は、少なくとも以下の内のひとつを満足するように要求されています。
- 1500Vrms、50Hz/60Hz、1分間 (IEC Pub950)
- 2250Vdc, 1分間 (IEC Pub 950)
- 2400Vパルス電圧を1回毎に極性反転させながら連続10回。パルス間隔は1秒以上でパルス波形は1.2/50us (IEC pub 60)
テスト中に絶縁破棄が生じてはいけませんし、テスト後も500Vdcによる絶縁抵抗測定で2MΩ以上の絶縁抵抗であることが要求されています。
送信動作
AUIインタフェースのDO信号に対応して10BASE-T信号のTD信号がドライブされます。差動信号の対応としては、DO-A信号がTD+信号に、DO-B信号がTD-信号に対応しています。
[変換遅延とビット消失]
DO信号からTD信号へ変換開始時のビット消失は2ビットまで許容されています。また、TD信号における一番最初のビットについては、位相のずれや信号振幅の規格はずれが許容されていますが、2ビット目からは正規のタイミングで送出しなければなりません。変換遅延時間は、定常時で2ビット以下と規定されています。連続する2つのパケットでは、各パケットの変換遅延とビット消失の合計の差が2ビット時間(200ns)を越えてはいけないことになっています。
[アイドル状態]
送信完了後、通信していない状態がアイドル状態ですが、フレームの終わりを示すためにアイドル状態に移行するための手順がTP_IDL信号として規定されています。TP_IDL信号波形では、波形が一度-50mVより低くなった後は+50mVを越えてはならないという制限があります。この信号規定により、フレームの送出完了後のTD回路は必ず一旦は“High”に遷移してから終了することになります。無送信状態(サイレント状態)におけるTD信号の差動出力は±50mVと規定されています。
[リンクパルス]
10BASE-T特有の機能で、データを送信していないでも定期的にTD信号上にリンクパルスと呼ばれるパルス信号を送出することによってセグメントの接続状態を監視するしくみ(リンクテスト:Link Integrity Test)が提供されています。リンクパルス波形の規定もTP_IDL信号の場合と同様に波形が一度-50mVより低くなった後は+50mVを越えてはならないという制限があります。リンクパルスの送出周期は、16±8msと規定されています。リンクテストの詳細については後述しますが、100BASE-Tの規格ではこのリンクパルスの仕様を拡張して10BASE-Tと100BASE-Tの区別が自動的にできる機能がオプション機能として採用されています。この機能は、オートネゴシエーションもしくはN-Wayとも呼ばれています。
[送信差動電圧波形]
TD信号上の送信電圧波形の擬似ツイストペア線ネットワーク回路を使用して規定されています。電圧波形の規定に関しては、電圧値に対して±10%の範囲が許容値として認められています。
[送信最大差動出力電圧]
100Ω負荷接続時にあらゆるデータシーケンスで2.2V - 2.8Vと規定されています。
[高次高調波成分]
DO回路からのオール1のマンチェスタ符号データの注入テストで、基本波以外の高次高調波は27dB以下であることが規定されています。
[送信差動出力インピーダンス]
規格としては、規定のツイストペア線(インピーダンス: 85Ω - 111Ω)接続時に、反射成分が15db以下とリターンロスとして定義されています
[出力タイミングジッタ]
擬似ツイストペア線ネットワークを100Ωで終端したものを接続して測定した場合でDO回路の±3.5ns、直接100Ω終端して測定した場合で±8nsと規定されています。
[送信出力インピーダンスバランス]
コモンモードとディファレンシャルモードのインピーダンスバランスも規定されています。インピーダンスバランスの定義は20log10(Ecm/Edif)で、これが 29 - 17log10(f/10)dBを越えないことと規定されています。ここで“f”は測定周波数(MHz)で、1.0MHzから20MHzの範囲で測定します。
[コモンモード出力電圧]
50mV以下が規定です。
[コモンモードリジェクト]
インピーダンスバランスの測定回路を使用して、コモンモード信号を注入します。注入するEcm信号は波高値15Vで周波数10.1MHzのサイン波です。このテスト環境下で、データ転送時のEdifが100mVを越えないことと、Ecm注入によるジッタ増加が1.0ns以下であることが要求されています。
[送信出力の故障耐性(フォルトトレランス)]
TD回路のTD+とTD-を短絡してもダメージを生じてはいけません。短絡電流は300mAを越えてはいけませんし、短絡状態が解除された場合は通常動作に戻らなければなりません。 また、コモンモードインパルス電圧に対する耐性も求められています。Ecmとして1000Vの電圧を注入します。パルス波形は、0.3/50usです(IEC Pub 60)。
受信動作
この10BASE-TのRD信号に対応してAUIインタフェースのDI信号がドライブされます。差動信号の対応としては、DI-A信号がRD+信号に、DI-B信号がRD-信号に対応しています。
[変換遅延とビット消失]
RD信号からDI信号へ変換開始時のビット消失は5ビットまで許容されています。また、DI信号における一番最初のビットについては、位相のずれや無効データであることが許容されていますが、2ビット目からは正規のタイミングで送出しなければなりません。変換遅延時間は、定常時で2ビット以下と規定されています。連続する2つのパケットでは、各パケットの変換遅延とビット消失の合計の差が2ビット時間(200ns)を越えてはいけないことになっています。
[受信差動入力信号]
タイミングジッタが±13.5nsまでの入力信号は受信し、DI信号に変換しなければならないと規定されています。また、この変換時に±1.5ns以上のジッタが追加されてはいけません。
[受信差動入力ノイズ耐性]
通常のマンチェスタ符号信号やリンクパルスはちゃんと受信できなければなりませんが、一方で、以下の信号については受信しないように規定されています。
- 3ポールで15MHzで3dBのカットオフ周波数に設定された低域通過型バターワースフィルタの出力で最大振幅が300mV未満のもの。
- ピーク値振幅(peak-to-peak)で6.2V未満で周波数が2MHz未満の連続波。
- 周波数が2MHzから15MHzの範囲で、ピーク値振幅が6.2V未満の1サイクルのサイン波。発生間隔は4ビット時間(400ns)で、位相は0度もしくは180度。このテスト波形は(a)で示したフィルタを通した時にその出力は300mVになるはずである。
[アイドル状態の検出]
TP_IDL信号によるアイドル状態への移行(TP_IDLから無信号状態)は、最後の“Low”から“High”への遷移から2.3ビット時間(230ns)以内に検出しなければなりません。この検出が波形のリンギングやオーバーシュート等で誤動作しないようにとの注意書きもあります。
[受信差動入力インピーダンス]
送信差動入力インピーダンスと同様、規格としては、規定のツイストペア線(インピーダンス: 85Ω - 111Ω)接続時に、反射成分が15db以下とリターンロスとして定義されています。
[コモンモードリジェクト]
コモンモード信号を注入します。この条件下で波高値25Vで周波数500KHz以下、立上り/立下り時間(40%-80%)が4nsより遅い矩形波をEcmとして注入します。この環境下で、DI信号上のジッタ増加は2.5ns以下でなくてはなりません。
[受信入力の故障耐性(フォルトトレランス)]
RD回路のRD+とRD-を短絡してもダメージを生じてはいけません。短絡電流は300mAを越えてはいけませんし、短絡状態が解除された場合は通常動作に戻らなければなりません。 また、コモンモードインパルス電圧に対する耐性も求められています。Ecmとして1000Vの電圧を注入します。パルス波形は、0.3/50usです(IEC Pub 60)。
ループバック機能
10BASE-TのMAUでは、TD回路にデータ送出中にRD回路上に何もデータが受信されない場合(非衝突状態)は、DI回路にDO回路のデータをループバックするように規定されています。
DO信号からDI信号へ変換開始時のビット消失は5ビットまで許容されています。また、DI信号における一番最初のビットについては、位相のずれや無効データであることが許容されていますが、2ビット目からは正規のタイミングで送出しなければなりません。変換遅延時間は、定常時で1ビット以下と規定されています。
衝突検出機能
10BASE-TのMAUでは、リンクテストがパス状態の間は、DO回路とRD回路に同時にデータが存在する場合を衝突状態として認識しなければなりません。
衝突状態が継続している間は、CI回路上に衝突検出信号(CS0: 10MHz)を出力しますが、最初の出力は衝突検知から9ビット時間(900ns)以内でなければなりません。また衝突検出信号は、DO信号もしくはRD信号がアイドル状態になった場合には、9ビット時間(900ns)以内に解除しなくてはなりません。
衝突検出信号がCI回路上に送出された場合には、9ビット時間(900ns)以内にRD回路上のデータをDI回路上に送出しなければなりません。また、衝突の解消がRD信号のアイドル状態への移行で行われ、DO回路上にまだデータが存在する場合は、9ビット時間(900ns)以内にDO回路上のデータをDI回路上にループバック送出しなければなりません。
SQEテスト機能
SQE(Signal Quality Error)テストは、衝突検出回路の正常動作を確認するために、フレーム転送直後にフレーム間ギャップの時間を利用して擬似的に送出される衝突検出信号のことです。
10BASE-TのMAUは、DTE接続ではSQEテスト機能を実行しなければなりませんが、リピータ接続では逆にSQEテスト機能を実行してはいけません。リピータによってSQEテスト信号がリピートされると、フレーム間ギャップ及び大きさが規格外れのパケットの発生が頻発しますので、ネットワークへの悪影響は多大なものがありますので注意して下さい。
SQEテスト信号の送出規定は、DO信号上のIDL信号検出から0us - 1.6us後に10±5ビット期間です。また、SQEテスト信号はリンクテストがOKになっていない場合は送出されません。
ジャバー機能
何等かの障害により、MAUがデータを長時間送信しっぱなしになってしまう状態を回避するためにジャバー(Jabber)と呼ばれる機能をハードウェアでMAU内に実装することが要求されています。この機能は、送信時間を監視し所定の時間を超過した場合は強制的に送信を停止させるためのものです。規定による制限時間は最少で20ms、最大で150msになっています。
ジャバー機能により送信が停止した場合は、MAUは同時にDO回路からD回路Iへのループバック機能も停止し、衝突検出信号をCI回路上に出力しなければなりません。
このジャバー保護状態はDO回路が所定の期間アイドル状態になるまで継続し、この期間はジャバー解除時間(Unjab Time)と呼ばれます。ジャーバー解除時間は、0.5ms ± 0.25msと規定されています。
リンクテスト
リンクテスト(Link Integrity Test)は、セグメントが正しく接続されていることを確認するために設けられている機能で、10BASE-Tの特徴の一つです。 10BASE-TのMAUは、接続を確認するためにRD回路上のフレームデータ及びリンクパルスを監視します。もし所定の期間、データもリンクパルスも受信しなかった場合は、MAUはリンクテストのフェイル状態(Link Test Fail)になります。この待ち時間は、リンクロス時間(Link Loss Time)と呼ばれ、50msから150msの間と規定されています。
リンクテストのフェイル状態では、TD回路及びDI回路ともアイドル状態になりますが、フレームデータを受信するかもしくはリンクパルスを所定回数連続受信すると、リンクテストのパス状態(Link Test Pass)に移行します。このリンクパルスの連即受信回数は、2以上10以下と規定されています。
もう一つ別の規定として、最大リンクテスト期間と最少リンクテスト期間があり、最大リンクテスト期間が25msから150msの間、最少リンクテスト期間が2msから7msの間と規定されています。最大リンクテスト期間内に受信されたリンクパルスのみが連続リンクパルスとしてカウントされなければなりません。また、もし最少リンクテスト期間内にリンクパルスが受信された場合は、リンクテストのパス状態の時はこれを無視し、リンクテストがフェイル状態のときは連続リンクパルスのカウンタをゼロにリセットしなければならない規定となっています。
MAUは、リンクテストがパス状態に無い場合は、データの送受信、ループバック、衝突検出、SQEテストの各機能を停止しなければなりません。また、リンクテストのパス状態をLED等で表示する場合は、パス状態を緑色表示にすることが推奨されています。
10BASE-T用MAUのAUIインタフェース
10BASE-T用MAUのAUIインタフェースも10BASE5等と基本的には同じですが、10BASE5でオプション機能として定義してあったCO回路やCI回路上のCS1信号(3.2.6. AUIインタフェースを参照)はサポートしないことを明示してあります。